兵庫〜朝来市やなせ酒蔵巡り

元禄より330余年
変わり続ける世の中で 変わらぬ誇りを醸す
ふたつの酒蔵
雪と霧に包まれて目覚めるこの町で また朝が来る

山陰道(裏街道)と宿場町、
朝来市 山東町 矢名瀬街道

 

朝来市は、古くは「天空の城 竹田城」や、江戸幕府から明治政府までが直轄鉱山としていた「生野銀山」など、時代の栄枯盛衰と共に歩んできました。

そのなかで、山東町矢名瀬は弓矢貢献の地「矢名師の里」に由来する町で、三方を山に囲まれて寒暖差が大きく、豪雪地帯にも指定される日本海と瀬戸内海の分水嶺でもあります。

また、古来より播磨・丹波地方から山陰地方に至る接点であり、京都への旧山陰道「表街道」と篠山への「裏街道(丹波・但馬路)」の分岐点として栄えた宿場町で、此の友酒造には豊岡藩主・京極氏が参勤交代で逗留(とうりゅう)する陣屋本陣も設けられていました。

街道で出会った二酒蔵

水は日本酒の大部分を占め、他の蔵にまねできない酒蔵の特徴の一つとなります。どちらの蔵も300余年の古い歴史がある昔からの和蔵。

竹泉を醸す田治米(たじめ)合名会社(以下・田治米)は泉州・和泉國から。但馬を醸す此の友(このとも)酒造株式会社(以下・此の友)は、播州・播磨國から酒づくりに適した水を探し求めて、ここ朝来市山東町矢名瀬の地に辿り着いたそうです。

日本酒醸造最盛期には、この小さな宿場町に七つの酒蔵・酒造組合があった事から、その水の評判の高さがうかがえます。

962メートルの頂きからの恵水に
高原火山岩で天然濾過された湧水

田治米では、夜久野(やくの)高原から。此の友では、町を包むようにそびえる粟鹿山(あわがやま)から長い年月を通して届いた天然水を汲みあげて、そのまま使用しています。水質はどちらもやや軟水で「灘の男酒 伏見の女酒」と例えられるように、軟水でつくられたお酒は、口当たりが柔らかく発酵もおだやかにすすみ、優しいニュアンスを持つ酒になります。

酒米の地元栽培

兵庫県は、酒米の王様と呼ばれる山田錦の米どころであり、「感動」の追求の為にもちろん山田錦を酒米として使っていますが、田治米と此の友は「地酒」であり続けることを追及するため、酒米の独自栽培にも力を入れています。

原料米や水など、全てその土地のものでつくるという意味では、「地酒」の一つの完成形と言えるでしょう。そのために、農家さんと二人三脚で酒米栽培を進めています。

酒造りは子供を育てるようなもの、
目が離せないし泣いたら飛んでいく

杜氏・蔵人の仕事と酒の出来栄え

杜氏は、地域や蔵の個性を引き出す管理者として、まず米を知り理想の味を描きます。仕込みは10月半ばから3月いっぱいまで、毎日5時に始業します。夜はつい「酒樽の様子を見にいかなければ」と仮眠程度の睡眠で酒づくりと向き合い、蔵人と寝食を共にしながら全てを手作業で進めます。

また、日本酒業界は変化の時。新商品の挑戦や、依頼を受けて製造するものもあり、1日に4種類の酒米に目を配りながら同時進行することもあります。和蔵での酒造りは、寒造りなどの気候の恩恵を多く享受できますが、「勘を養う」のが難しいといわれています。お酒づくりは毎年イチから。原料米は、品種・生産者が同じでも地域や圃場、稲穂の出来によっても毎年変わります。

杜氏達がお米の状態を五感で感じながら、作り方を少しずつ変化させていきます。これこそ、毎年の新酒の時期が「今年の出来はどうだろうか?」と楽しみになる一因です。

嬉し楽し美味し

「和醸良酒(わじょうりょうしゅ)」という言葉があります。これは、酒造りで蔵人、お酒を届ける人、飲む人までが「和」の心を大切にしてこそ良い酒ができるという意味です。

また、良い酒は人間関係をよくするという意味もあります。お客さんが感動して笑顔になることによって、人の和が広がることが理想とされています。そのためには、色んな人に合う、色んなタイプのお酒があっていいし、その全てに対して全力で向き合えるよう、今日も酒づくりをしています。

蔵で飲み比べて知りたい
自分の好みと楽しみ方

気分と温度で楽しんで

「じわじわと沁みる一杯か、キリッと軽やかな一杯か。」温度という要素を加えると、日本酒はよりおいしく楽しく広がります。人の味覚は温度が下がるほど酸味をはっきり感じ、上がると甘味や旨味を感じやすくなります。まずは冷やの状態で、甘ったるかったり香りが強すぎるように感じたら温度を下げ、もっと旨味やコクが欲しいと思ったら温度を上げる方向に調整を行います。そうする事で、自分の好みのスタイルがわかり、お酒を選び、嗜む楽しみが広がるのです。

日本酒は終わりなき旅のよう

嗜む楽しさを知ってしまうと、今度は酒器にもこだわりたくなるもの。酒温が上がれば、酒器はゆるやかで口に当たる面積が広いものを選びます。逆に温度が冷たくなれば、口に当たる部分が薄いものを選びます。そうすることで更に特徴が際立ち、より美味しく飲めるようになります。

ところが、そうして見つけた好みは、季節・場面・気分などで移ろいがち。そして新たな魅力の扉は日本中に開いており、嬉しいことにどんどん世界が広がってしまうのが、また幸せなのです。

 

 

酒蔵紹介

 

未来醸造 × 伝統回帰

 

 

職人集団としての極限の味の追求も
担い手として多様な好みに応えることも
小さな地酒蔵だからできる
手間暇かけた酒造りにこだわりたい

日本酒の希望ある未来をその瞳に宿すのは
杜氏の弟子であり蔵元後継者、木村有紗さん

地元の人の晩酌として愛されるお酒造りを目指し、昔ながらの手づくりにこだわり、技の研鑽を重ねる。一方で多様化するニーズに合わせた酒造りを目指し、五穀米・米・麦焼酎の醸造や、シェリー樽での貯蔵、果実リキュール開発など、ジャンルに囚われない新たな「国酒」造りの試みにも果敢に挑戦。

常に酒瓶の向こうの「お客さんの笑顔と驚き」を創造しています。

華やかな香りと旨み

「女性にもこの楽しい日本酒の世界を」とイメージして開発した純米吟醸「や」は、封を開けるとフルーティでフレッシュな香りが鼻の奥まで届きます。

此の友の酒造りは、粟鹿山系の天然軟水、山田錦米など地元の良質な素材を、新たな挑戦と但馬杜氏の伝統技術で深みのある芳醇な日本酒へと育てています。そうやって生まれた酒は、全国新酒鑑評会で六年連続の金賞を受賞しました。

また当蔵では、江戸期に発案された自家蒸留した米焼酎「天のひぼこ」を添加することで、よりいっそう米の旨味が凝縮される製法を再現しています。日本酒の旨味そのままに、加えた焼酎に由来するキレと、米の甘味の余韻を持った酒質を実現した柱焼酎仕込みとして復刻させています。

地域原産米の復活と未来への種まき

但馬生まれの酒米をもう一度。その想いから自然農法に取り組む「てらだ農園」と共に【幻の酒米】とも呼ばれる但馬強力の再生にも取り組んでいます。「しなやかで女性的」と評される稲穂は、高級酒醸造に好適。兵庫県の奨励品種であるも栽培の難しさから姿を消していたものを世に甦らせました。

「但馬の土地になじんだ、但馬での酒造りに最適な酒米。何年かけても究極の酒米として、但馬強力を巨木に育てたい」と意気込んでいます。

また、2016年より養父市の国家戦略農業特区事業者「Amnak」と提携。「スマート農業」で持続可能な酒米農業モデル構築を目指し、オリジナル銘柄「但馬ほまれ」は醸造・海外向け販売も共に行います。同社は、山田錦の日本一の産地である三木市で酒米栽培をしていましたが、近年の気温変化による生育の変化から但馬の地へ。共に未来の日本酒業界に種をまいています。

【Amnak 藤田彰さん / てらだ農園 寺田正文さん】

杜氏とおすすめの酒

勝原誠さんは二十歳で此の友に入社し、杜氏となってから18年。古き良きものに興味があり、先人が築いた世界にも比類ない知恵の結晶、日本酒の製造技術を未来に継承するために日々勉強中です。全国新酒鑑評会では6年連続金賞。

「一番の目標だったので、こんな小さな蔵で受賞できたのは奇跡のよう。実るまでの期間が長く、当時は自分の酒造りのセンスも疑うほどだったので。」

杜氏のこだわりは二の次と思いながらも、身と心を削りながらつくる超特撰大吟醸「極上」は、華やかな仕上がりで自分の得意とするところかもしれない。この冬の新酒もとても良くできました。また、イチ日本酒愛好者として「但馬杜氏の技」は外せない。個性を主張しすぎず料理を引き立てる、長く飲むには本当にいいお酒。華やかな吟醸などに浮気をしても、いつか帰る場所のようなお酒です。

米も、命も削りながらつくる大吟醸
いい奥さんのような普通酒

勝原誠 杜氏

 

 

日本で一番の吟醸酒。
S A K E C O M P E T I T I O N ※
吟醸部門「1 位」受賞蔵

全国新酒鑑評会「金賞」6年連続受賞
大阪国税局鑑評会 吟醸酒の部「優秀賞」・燗酒用日本酒の部「優秀賞」9 年連続受賞
※市販日本酒のみが参加できる品評会SAKE COMPETITION2016 にて1位受賞

 

 

酒蔵紹介

 

全量純米 × 熟成創価

 

時間を愉しむヴィンテージ日本酒に
時間を止める槽口直詰KEG DRAFT
まだまだ拡がる日本酒の可能性を食卓に
世界平和を家庭平和から

カウンター越しに純米燗愛を語りだすと
もう止まらない田治米 博貴社長

コンセプトは、「熟成・純米・食中・燗酒」。新酒は勿論美味しいですが、純米酒は寝かせることで柔らかく、ほっこりするようなお酒に熟成します。

昔から「寒づくりの秋上がり」、つまり「ひやおろし」が一番おいしいと珍重されてきました。ですから、当蔵では基本二年間以上は眠らせ、調熟させてから瓶詰します。同じ手順を重ねても、出来あがりは毎年少しづつ違います。そこも楽しんでもらえるように、ヴィンテージ概念(酒造年度BY表記)も導入しています。

また竹泉といえば「燗酒(かんざけ)」。人間と一緒で寒いと縮こまり、温かいと、心も体もふわっと開く。炊き立てゴハンが美味しいのと同じです。自然にお米の香りがして、豊かな酸が食欲をそそる。そして肴を口に運べば、お酒がまろやかに素材の味を引き出します。

槽口直詰生原酒KEG DRAFT

一方、われわれ蔵人(くらびと)が知る、日本酒の特別な美味しさもあります。「槽口直詰」と呼ばれる生原酒は、醪(もろみ)からしぼりたてで非加熱の酵母が生きています。当蔵で「ぴちぴち系」と呼ぶこの美味しさを詰め込んだ、世界初の「日本酒の時を止める」真空保存サーブシステム【KEG DRAFT SAKE】を輸出商社と共同開発し、海外展開を含め日本酒本来の姿も発信しています。

幸の鳥が舞うこの地で

幸せを運ぶコウノトリが舞い降りる田んぼで、山田錦や兵庫錦を栽培する髙本農場。山田錦より古い歴史を持ち、栽培難度から幻とも呼ばれた雄町を育てる吉田農場や佐藤正章さん。熱意ある地元農家の皆さんと毎年研究の日々です。酒米は食用米と違い、育成期間も長く倒れやすいので、山陰地方では天候との戦いにもなる農業ですが、このパートナーシップで、竹泉が理想とする全量朝来市産の銘柄も随分と増えました。

自然再生の取り組みでもある「コウノトリ育む農法」の促進にも注力しています。

【吉田農場 吉田和之さん /  髙本農場 髙本知宣さん】

杜氏とおすすめの酒

高橋慶次さんは「人の感情を動かせる仕事」と知って23歳で杜氏の世界へ。先代から田治米を任されて8年。心がけるのは「安全醸造」。

心の安全と体の安全がいい酒づくりにつながりますし、一人でできない仕事なので、蔵として皆が達成感を得られるよう、若手の声も聞きながらチームを楽しんでつくっています。

うちの酒は「地味で旨い」。社長も「普通が一番。一杯飲み終わった後に、あーこれ、竹泉だったんだと気づかれるくらいでいい。」と話しますが、普通が一番難しいです(笑)。

個性は意識が向きやすいですが、シンプルだからこそ全体に手が抜けない。特に竹泉は酵母も1種類しか使わず香りも強くしない。色々加えるのではなく、なるべく地味につくり「米のチカラ」を信じて芳醇な香りと旨味を育てます。

新しい技術に頼りすぎない分、できない部分はジタバタしながら、それがまた味になると思う。その努力がきちんと旨みに昇華して私も安心できた純米vintageシリーズ。ぜひご賞味を。

 

野太さのなかに旨みある芳醇辛口
綺麗になりすぎない純米

高橋慶次 杜氏

 

 

世界を旅した大吟醸。
A N A 国際線9 路線※
ファーストクラス搭載蔵

全国新酒鑑評会「金賞」10 度受賞
仏 Kura Master(蔵マスター)4年連続「金賞」受賞
英 IWC (インターナショナルワインチャレンジ)
「シルバーメダル」受賞
※2012 年搭載

 

 

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宮谷商店

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